2018/03/19

10年

今日
仕事から帰ってきたら近所の畑が畑ではなくなっていた。
じきにマンションかアパートになるらしい。
目まぐるしく家の周りが開発されている。

たくさんのことを失い、たくさんのことをあきらめた
その分、たくさんのもの、ことにも出会ったけれど
私の心はやっぱりどちらかというと過去に向いている
懐かしい景色、色、音、手触り、匂い
「感覚」はこの先どうなっていくんだろう
便利と引き換えに失った物を思い出せなくなっていることが怖い

週末
小学校からの幼なじみの家に遊びにいった。
高校、大学、社会人、とだんだん互いの環境も変化して接点をなくしていったのに
不思議なくらい、その時は昔と同じだった
はじめはなんとなく気を遣っていたのがだんだんほぐれてきて
話すときの安心感を久しぶりに懐かしく思い出した。

そして、ずっと忘れてしまっていた中学時代が一緒によみがえってきた。
下駄箱あたりの景色
登下校のときみていた川と畑

そのうちの一人の友人は秋には地元へもどってきて子育てが始まるそう
帰りの電車でまだ5センチの写真をみせてもらう
小学校から知っている彼女がお母さんになる
嬉しくて嬉しくてふたりで抱き合った

もう一人の友人は人生で初めての友達。
ずいぶん前にプレゼントした置物をそっと飾っていてくれてたまらない気持ち。

ここ最近落ち着かず、不安定だった気持ちがすとんと腑に落ちた。
おかげでよく眠れ過ぎて寝坊した月曜日。

映画感想ノート


2018/03/05

花とオールナイト、夜明けのシベリアとコーヒー

Venison stew and smile

鹿肉のワイン煮込みと笑顔
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すっかり元気になった。待ってました週末。

楽しみにしていたみなみ会館でのアキ・カウリスマキ オールナイト 。
一晩でカウリスマキ作品が4本も、しかもすべてフィルム上映ということで
もう楽しみでワクワクしてしまい結局殆ど昼寝もしなかった。

初めてのオールナイトがカウリスマキ作品だなんて幸せだ。
「ル・アーヴルの靴磨き」以前のカウリスマキ作品は日本には上映権がないとのことで
ユーロスペースを通してフィンランドと交渉の末、今回の上映会が実現したんだそうで…
それを聞いただけでもうすでに胸熱熱。
ほぼ満員のみなみ会館で淡々と上映会スタート。

自分の周りにはカウリスマキ作品を好きな人は殆どいないけど
この会場にいる人みんな(おそらく)カウリスマキ作品が好きなんだな
特に話しかけることはないけれど嬉しい。

上映作品はこちら。撮影年代順に上映。
「パラダイスの夕暮れ」
「レニングラードカウボーイズ・ゴーアメリカ」
「コントラクト・キラー」
「街のあかり」

今回はマッティ・ペロンパーとカティ・オウティネンを堪能した感。
「パラダイスの夕暮れ」の二人は若々しく不器用で、よりいっそう無愛想だけど
とても表情豊かにも感じる。不思議。
カウリスマキ29歳の頃の作品だとか。
しかしこのぺたりとしたカメラの視線と色合い、台詞の少なさ、目が語る演技
そしてやっぱり花。
ニカンデル(マッティ・ペロンパー)がデートに花束(紐で簡単にくくられただけの)を持っていくシーンがとても好きだった。
デートに花束は照れも相まってとてもいいなーと思う愛情表現なので
もっと日本で老若問わず当たり前になればいいのにな
一本だけ、とかその辺でつんだ花をラフィアとか麻でくくる。みたいな花束。
カウリスマキ作品を好きになったきっかけは「街のあかり」の食卓の花だった。
簡素な部屋に無造作に置かれた花。
ある時は赤いカーネーション、ある時は黄色。

あとはデートで男性が女性に手料理を振る舞うところがとてもいい。
フィンランドでは定番のデートなんだろうか。
もちろんカウリスマキ作品なので笑顔は殆どなく、
男たちの気合いはもろくも崩れ去る感じが最高。

大げさなリアクションは一切なく、
淡々と、でも相手をとても気遣い、不安になり、安心していたり
そういう気持ちがじわじわと伝わってくる。

カウリスマキ作品に登場する登場人物たちを愛せずにいられない。
ほんの少しの表情で、寂しさや嬉しさ、愛しさや哀しさ
いろんな感情が伝わってきて、そうそう、と思う。
声の小さな人の心をこそ丁寧にひろってくれるアキ・カウリスマキ。

最近不思議と北欧の映画を無意識に選んでいることが多い。
淡々と静かに話が進む感じや、台詞より雰囲気で語る感じが邦画と近い気がするので馴染みやすいのかも。
フィンランド=かもめ食堂、デザイン というイメージだったのがカウリスマキのおかげで
その明るい部分にかくされていた影が見えるようになった。

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オールナイトから一夜明けた、まだ暗い中を東寺のがらくた市へ。
懐中電灯片手に搬入する影がたくさん動いていてなんだか不思議な活気があった。
真剣に3つで100円のマッチを選んでいるうちに夜が明けた。
門前でコーヒーを買い、シベリアをもらって一緒に朝を味わう。
普段話さないような話を少し出来た。朝の特別で清々しい空気。
未来に向かっている彼女の姿は背筋が伸び、すっとまっすぐでかっこよかった。
何だかすっと、心に風が通り抜けていった気がする。
ここ最近の滞っていたものがさらさらと流れていった。
もうすぐ春だ。